名選手列伝

加藤英司(秀司) 広島在籍:1983

1948.5.24生 左投・左打 PL学園高−阪急−広島−近鉄−巨人−南海(’88引退)

高橋直樹 広島在籍:1981〜1982


1945.2.15生 右投・右打 早稲田大−東映−日拓−日本ハム−広島−西武(’85引退)


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実力を発揮できなかった勇士たちの巻

■金に余裕のない広島東洋カープにはFAなんて無縁である。それでも過去の歴史を繙くと、新聞の一面を飾るほどの大型トレードが無かったわけではない。水谷実雄と加藤秀司、江夏 豊と高橋直樹である。結論から言うと、水谷は阪急ブレーブスで打点王、江夏は日本ハムをリーグ優勝に導く。しかしながら、これらのトレードはいずれの場合においても、カープにとっては「吉」とはならなかった。両チームにとって「幸せな」トレードというのはなかなかないものである(FAでさえもなかなか成功しないことは周知の事実である)。

■加藤秀司と高橋直樹の実力が足りなかったということはない。むしろ、両者ともそれまでの実績は十分すぎるほど十分であった。逆にその実績が広島での活躍を阻害してしまった感がある。そもそも、二年連続日本一を支えたリリーフエース江夏がトレードに出されるとは、ほとんどの人が思っていなかったはずである。唯一江夏自身はその覚悟ができていたかもしれないが、高橋直樹にとってはまさに晴天の霹靂。それまで日本ハムのエースである。「なんでおれが広島なんぞに」という雰囲気が当初からありありだった。案の定、シーズン当初から打ち込まれる。有り余る才能を持ってしても、本人のやる気が伴わなければ空回りしてしまうのがプロの世界の厳しさ。日本ハムのエースだった選手だから、もちろん広島ファンは期待する。リリーフエースを出してまで取った投手なんだから、先発の柱になって当然と考えるのはファン心理としてあたりまえである。残念ながら広島ファンは、チーム可愛さのあまり実績が上がらない場合の選手への罵倒も痛烈なものがある。打線の軸にと期待された加藤秀司もしかり。結果が出ない試合が続いてヤジの嵐。本人に責任感があればあるほどその罵倒は自らの内面に向いてしまう。「ここで打たねば」という気持ちばかり先走り、結果が凡打の繰り返し。この悪循環が最終的には「故障」という形で追い打ちをかけてしまう。それまで10年近くパリーグでやってきて、いきなりセリーグの打者や投手と対戦しなければならないのも酷な話ではあったのだが…。

■両選手とも広島在籍中の成績は、それまでの成績が嘘のような超低空飛行。これはさすがに痛々しかった。結局、高橋直樹は2年目のシーズン途中に西武へと移籍する。ところが、移籍した途端、やはりパリーグの水が合っていたのか、それまでの不調が嘘のように鮮やかなピッチングが甦る。終わってみれば西武で2完封を含む7勝(2敗)、防御率2.27。広島ファンが高橋直樹に期待した姿がそこにあった。さらに次の年はまさにエースとしての働きで西武連覇に貢献(13勝3敗)。一方の加藤秀司も1年目のシーズンオフに近鉄へトレード。近鉄での次のシーズンは全試合に出場し499打数126安打72打点14本塁打で立派に復調。その後巨人−南海と渡り歩いて昭和最後の年1988年に打者の勲章2000本安打に到達(立派)し、そのまま引退。。黄金期の阪急を支えた主軸打者としては何とも遅い達成である。「広島での回り道がなければもっと早く達成できたはずだったのに」と、加藤本人が思っているかどうか、それは私にはわからない。しかし、高橋直樹にとっての広島は、思い出したくない過去であることに間違いはないはずである。

■ただ、日本ハムにとっては、一昨年までのチームメイトがいきなり敵にまわってしまい、もとのチームのリーグ制覇立ちはだかるのだから、大沢親分にとっては痛し痒しであったに違いない。そういった意味では、高橋直樹はきっちりと自分をトレードに出したチームに恩返しをしたことになる。ドラマの片棒を担いだ格好になってしまった広島カープであった…。


成績:加藤秀司(シーズン)


チーム 試合 打数 安打 二塁打 三塁打 本塁打 塁打 打点 盗塁 四死球 三振 併殺打 打率
’82 阪 急 129 456 107 21 21 193 84 57 83 10 .235
’83 広 島 75 253 66 10 109 36 25 49 .261
’84 近 鉄 130 499 126 16 14 186 72 64 91 .253
通算19年 2028 6914 2055 367 37 347 3537 1268 136 882 1067 93 .297

首位打者:2回(’73、’79)、打点王:3回(’75、’76、’79)


成績:高橋直樹(シーズン)


試合 完投 完封 無四球 勝利 敗北 セーブ 勝率 投球回 安打 本塁打 四球 死球 三振 自責点 防御率
’80 日ハム 30 10 .526 152.2 164 21 24 86 69 4.06
’81 広 島 16 .286 66.0 70 10 42 29 3.95
’82 広 島 .000 3.0 6.00
’82 西 武 17 .778 94.2 81 18 36 24 2.27
’83 西 武 25 13 .813 142.2 137 15 23 37 48 3.03
通算17年 474 136 23 36 169 158 13 .517 2864.1 2710 298 471 87 1388 1055 3.32

 

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